「特攻の島」から読む帝国海軍のWWⅡ潜水艦戦略 その2

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その2では「特攻の島」に登場していた板倉光馬少佐(実在の人物)に昭和19年9月時点での状況を説明頂きます。

現状、帝国海軍の潜水艦は60隻に対し、アメリカ海軍は4倍の230隻と4倍近い格差がある状態です。なお、開戦時の潜水艦隻数は64隻戦時中の竣工が124隻戦中の亡失が131隻大戦中の損耗率は68.9%というのが帝国海軍の潜水艦戦の最終スコアとなります。

これは他の艦船と較べて悪いスコアなのか言われれば、実はそれほどでもありません。一番ひどいのは駆逐艦の77.6%、これは航空攻撃による物も多いのですが、本来潜水艦を狩るのが役目の駆逐艦の多くがアメリカ海軍の潜水艦の返り討ちに遭って撃沈されているのが特徴と言えます。

そう、帝国海軍は対潜水艦線が大の苦手でした。駆逐艦ですら旧式な音響探知装置(方位探査能力に劣る九三式水中聴音機)と貧弱な対潜兵器(18発しか装備していない上、爆発深度調整が三段階しかない旧式の95式爆雷)か備えておらず、駆逐艦の運用も開戦までは全速力で敵水上艦に突撃して魚雷の肉薄攻撃する事に特化しており、開戦後航空戦が主力なると艦隊の防空砲台として機動力を活かして爆撃や雷撃から全速力で逃げ回りながら空に向かって対空射撃するだけの存在になりました。空母や輸送艦隊と随伴して音を出さないよう静かに哨戒活動を行い、じっと聴音機に耳を傾けて潜水艦を狩るような任務はそもそも想定外でしたし、戦術や装備も終戦まで改められることはありませんでした。

潜水艦に与えた用途も戦術も戦略も全てが誤っており、終戦まで殆ど甚大な被害に対する戦訓を活かせず誤った運用を続け、その無駄に高度な乗組員の練度をすり潰してろくな成果を残せずに壊滅したというのが帝国海軍潜水艦部隊(第六艦隊)の実態であったのです。

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そもそも回天のような兵器が考案されたのも、潜水艦に敵の警戒が厳重な泊地周辺に散開線を展開し、敵艦船の偵察をさせつつ泊地から艦隊が出てきたら襲撃させようとしたり、甲標的のような特殊潜航艇を生還確率無視で泊地に送り込んだり。敵航路に沿って直角の散開線を整然と展開するなどの洋上艦隊の補助兵器、奇襲兵器扱いをしてハイリスクな戦法に終始した挙句戦力を損耗し、それでも敵艦隊や泊地襲撃を諦めずに「人の命を使い捨てにしても泊地や艦隊を襲撃できる兵器を」という発想から離れられなかったからです。

では、何でこの戦法がダメなのかを解説していきます。

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1.泊地偵察&包囲待ち伏せ襲撃戦法

真珠湾攻撃の際、開戦前からハワイ諸島周辺に27隻もの潜水艦による散開線とパールハーバー周辺に扇状の包囲偵察網を展開して敵艦隊の動きを監視していましたが、その結果は

%e6%95%a3%e9%96%8b※資料が殆ど無かったので、断片的な情報から作成した配置想像図

・敵本拠地なので、当然航空機やパトロール艦による警戒が厳重でパールハーバーに近寄れず

・隣のラハイナ泊地に敵主力が居ない事を突き止めた事と西の外れにある小島、ニイハウ島付近で不時着機の救助活動に従事した以外戦果ゼロ

・伊70潜を事故?にて喪失

・敵に察知されて爆雷攻撃を二隻が受ける

何でこんな事になったかと言えば

・敵の哨戒活動が活発なため、昼間は聴音と潜望鏡で狭い範囲を偵察するのが限界(海面から2m潜望鏡を突き出したとしても地球の丸みのため最大半径5kmしか視認できない)

・聴音機(パッシブソナー)では静止状態で条件が良ければなら前方15km以上は探知できたが、音紋照合も無い時代に艦種特定は当然できず、おおよその方向しか探知できない。しかも聴音機の指向性が悪く、おおよその角度しか分からない。運良く補足したとしても潜行中は数ノットしか出ない鈍足の潜水艦では追跡も不可能

・悪天候や時化の際には潜望鏡では遠くを見ることが出来ない

・夜は夜で光学的な偵察が不可能な上、浮上して充電を行う必要があるため他に何も出来ない

・そのくせ配置間隔は推定30海里(55.6km、北西の散開線密度より推測)もあり、潜水艦の能力的に到底カバーできない

と、根本的にこの作戦は破綻していたとしかいいようがなかったのです。

2.散開線迎撃戦法

先程のパールハーバーに展開した潜水艦のうち、北西の4艦は「散開線」と呼ばれる直線的な哨戒線を引いていた事は何となくお分かりかと思いますが、この戦法を南方でも続けた結果起きたのは以下のような結末でした。

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【米駆逐艦】おっ?さっきからジャップの無線らしきものが飛び交っているで。低速で静かに移動しつつ聴音を強化するで。うん?何か前方の海中から音が聞こえるで?アクティブをソナー打つで→コーン!お、ジャップの潜水艦がいたで。

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【米駆逐艦】おっしゃーほな攻撃するで、爆雷投射!ポーイ ポーイ ドーン!ドーン!

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【米駆逐艦】でかい気泡が海面に沸いて潜水艦の部品やオイルや死体が浮き上がってきたで、撃沈やで。ということは近くにジャップ潜水艦が散開している可能性が高そうや。ほな足を止めて聴音するで。

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【米駆逐艦】おっ、南から音がするで南に進路変更するで。

【米駆逐艦】30海里南下してアクティブソナーを打ったら補足できたで。ほな攻撃や!ボーン!撃沈!ということは30海里間隔でジャップの潜水艦がいると見た!ドーン!ドーン!撃沈!撃沈!撃沈!撃沈!大戦果や!

かくして散開線に展開している潜水艦は、その均等な配置間隔故に容易くその居場所を推定されて撃破され続けました。

そう、規則的な配置というのは潜水艦戦において絶対にやってはならない戦術なのです。

しかも帝国海軍は配置だけでなく、移動にも似たような規則性を持たせるという愚を犯します。

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ジグザグ航行、もしくは之字航法と呼ばれる極めて正確かつ定期的に左右に転回しながら移動するという回避航法なのですが、これを戦時にやるとどうなるかと言えば・・・

はい、バッチリ敵さんに動きを読まれて回り込まれて撃破されます。

「海賊とよばれた男」ではその戦訓を活かして、出光のタンカー日章丸がイギリス海軍がら逃れるためにランダムに迂回するという航法を使い、見事捕捉を免れるというエピソードが有ります。

隠密性を活かすのであれば、規則性は極力排除し、現場指揮官の判断で自由に行動するのが原則なのですが、帝国海軍はこの点でも深刻な問題を抱えていました。

先程説明した例の悪名高い散開線を艦隊司令部が頻繁に無線で指示して移動させまくったために、移動中に補足されたり、無線を傍受されて所在を察知されたり徹底的に現場の妨害をしていました

現代に例えるなら、ヤクザが敵対している組の幹部を狙わせているヒットマンにツィッターで合言葉や符号を使って指示を出しているような物です。

ということで、次回では帝国海軍潜水艦の技術的な特徴と問題点を解説したいと思います。

(つづく)

 

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